本棚,家具の倒壊と地盤震動の方向性
家具などの倒壊や引出しの飛び出しに方向性が見られるでしょうか.震央に近いところでは上下動が卓越し,しかも不規則であることが多いため,書棚,墓石や建造物の転倒から方向性を読み取ることは困難です.しかし,震央から離れると地盤の揺れに方向性が出てきます.また,家具の倒壊に至らない震度5弱程度の揺れでも,スチール机の引出しが飛び出る方向性から地盤の動きを調べることができます.
図1は2004年新潟県中越地震の,震央から約40km離れた新潟県立与板高等学校の図書室のようすです.この書棚は長いほうが南北に並列していて,本は東西側から取り出す配置になっています.地震動によって棚は西方向に倒れました.中央のこちら側を向いた書棚は長いほうが東西方向で,倒壊を免れています.図書室(3階)のすぐ下の教務室(2階)では,東西方向を向いたスチール机の引出しは開きましたが南北方向の引き出しは開きませんでした.さらにその下の生徒玄関(1階)の下足箱は長いほうが東西方向に並列していて,倒壊を免れました.
図2 は2007年新潟県中越沖地震の震央から約40kmはなれた,新潟県立巻総合高等学校の図書室(3階)で,書棚の長いほうがやはり南北方向で,東西方向から本を取り出す配置です.この図書室は2004年中越地震後に図のような倒壊防止用の補強具を書棚に取り付けていたため,倒壊は免れました.また,司書室や下の階(生物室,2階)ではスチール机の東西方向の引き出しが開きました.
図1 2004年中越地震による書棚の倒壊. 新潟県立与板高校図書室.倒れた本棚は長い方が南北方向に配列.震度5強
図2 2007年中越沖地震.新潟県立巻総合高校図書室.震度5弱
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図3 に二つの地震の推定震源域と与板高校,巻総合高校の位置を示しました.それぞれの地震による地盤のゆれには,図の両矢印に示したような方向性のあったようです.つまり,平野の方向と直交する方向の揺れが卓越していました.この地方の被害地震の震源断層の多くは断層面が西傾斜で,東側の地盤が西側の地盤の下へ潜り込む,いいかえると西側の地盤が東側の地盤の上にのし上がる運動をします.上の二つの例はこのことと整合的です.
これらの事例は,学校図書館の書棚,生徒玄関の下足箱設置方向や補強について示唆を与えています.この地方について,とくに配列だけで言うならば,下足箱や書棚は東-西〜東南-北東方向が比較的安全で,南-北〜北東-南西方向は倒壊しやすいということになります.
ただし,震央の近くではあらゆる方向に回転しながら振動します.最低限でも図2のような転倒防止装置が必要なことは言うまでもありません.
図3 2004年中越地震、2007年中越沖地震の推定震源域と地盤の揺れ.地図は帝国書院(2002)による.
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