日本海東縁プレート境界の地震地学
Seismo-Tectonics on the Eastern Japan Sea Plate Boundary

新潟の地震を考える
My View about Seismicity around Niigata Region

2012年9月4日追加

地震感知器の紹介 Production of a simple seismograph

 紹介する感知器は新潟県立教育センター科学教育課平成7年度理科長期研修と県教育委員会同年度高等学校理科教員研修の実験教材として開発したものです.この開発に際しては本田栄次氏,本田一晃氏からご指導ご協力いただきました.両氏に厚くお礼申し上げます.

§1.経過

 震度1程度でも長周期の地震波なら,天井に吊るした電灯がゆっくり振れることは昔からよく知られています.この現象を利用して柱に感度の良い振子を設置し,一定程度の振幅になったときに電流が流れ,警報器のスイッチが入る装置はできないものかと考えました.課題は振子の感度をあげることと,どのようにして警報装置のスイッチを入れさせるかの2点でした.
 この問題は,この方面に詳しい筆者の高校時代の恩師,豊栄市(現新潟市)在住本田栄次先生にご指導をいただく機会を得て一挙に解決しました.筆者が高校生のときに教えていただいたのは物理でしたが,先生の本来のご専門は機械工学です.しかも先生のご子息の本田一晃氏が電気工学がご専門で,はからずも親子二代の両氏からご指導をいただくことになりました.

§2.装置の概要

(1)振子
 先生の振子は旋盤の作業でできる削り屑の「きりこ」でした.糸に錘をつけるのではなく,螺旋状の金属をそのまま吊るしたもので,これがとても感度が良いのです.また,ホームセンターで入手できる代用品も紹介していただきました.「ロングバネ」という商品で,直径6mm,長さ30cmのつるまきバネです.これを二人掛かりで,弾性限界を超えて塑性変形する(3mくらい)まで一時的に引き延ばしてやり,自然の長さが36〜38cmになるようにすると出来上がりです.ほどよい軟らかさになり,これを吊るすと前述の「きりこ」と同じような感度を得ることができました.これも本田栄次先生のご考案です.引き延ばす前と後のロングバネを図1に示します.均一な部品を多数用意する必要性から,研修教材として作成した感知器は全てこれを用いました.

タイトル 図1.弾性限界以上に引き延ばして20%ほど塑性変形させたロングバネ(上)ともとのロングバネ(下)

(2)ON時間保持回路
 次は警報装置のスイッチを入れるためのリレー装置です.この装置は本田一晃氏の考案になります.図2の回路図と以下の動作原理の説明文は同氏からご指導いただいたものを基に一部改変して示しました(実際に入手した抵抗とコンデンサの規格にあわせてあります).

〔動作原理〕
(a)地震検出部の接点がON(オン)になると,+6V電源から地震検出部→抵抗R1→コンデンサC1と電源が流れ,C1は2ms(ミリ秒)以内に充電される.
(b)C1からトランジスタTR1のベースへ内臓抵抗の7.5kΩを通して電流が流れるとTR1はONになり,RL1の接点(3,4番間)がONになる.
(c)地震検出部の接点がOFFになると,C1の電圧はTR1のベース電流で放電されるが,ベース抵抗(7.5kΩ)とC1(33μF)の時定数により,約0.5秒間ベース電流が流れ続けるので,リレーも0.5秒間ONを保持する.
(d)したがって地震検出部が2ms以上ONになれば,リレー接点が0.5秒以上ONになり,音声発生装置を確実に動作させることができる.

タイトル 図2.ON時間を保持するためのリレー装置の回路図,〔本田一晃(1995)=私信による.本田一晃氏のメモではリレーRL1はG6H-2-DC5V, トランジスタTR1はRN1202,TR1の内部抵抗は10kΩ,抵抗R2は620Ω,電解コンデンサC1は22μFである〕

§3.取り付けは柱に 

 本来は,振子,リレー装置,音声発生装置(警報音,または電子音楽)を建物の柱に取り付けるのが良いと考えています.普段の生活の場の,居間等の見上げた位置にあればそれだけである種の防災教育になると思います.三陸地方等では「ゆっくり地震」で揺れを感じないままに津波に襲われる心配もあります.感知器からの音声で「おや地震だ.ゆれは小さいが津波の心配はないか」とテレビやラジオのスイッチを入れる習慣をつけることはとても重要です.そのためにも,居間の柱は最適です.

 しかしながら,新築の家の柱にねじ釘の穴をあけるのは憚られます.以下に,そういう場合を考慮した移動式の卓上用の感知器を紹介します.柱を模した据え付け用角材を合板の台座に取り付けました.振子は風防で覆います.リレー装置,音声発生装置(市販の8曲入り電子オルゴールキット)の配線のようすをごらんください(図3〜7).


タイトル
図3.感知器の概観


タイトル 図4.感振部(地震検出部).バネの下端付近に銅線でループをつくり,震動時の接点としました.


タイトル 図5.ON時間保持回路(リレー回路)


タイトル 図6.音声発生(警報)回路.市販の「8曲入り電子オルゴールキット」.メーカーの説明には「1チップ電子オルゴールIC SVM7993COC[SEIKO]使用」とあります.1995年製です.現在はもっと簡便なものがあるかもしれません.参考のために,製品についていた回路図を図7に示します.


タイトル 図7.「8曲入り電子オルゴールキット」の回路図

 
 [著者]
 河内一男 
KAWAUCHI Kazuo
新潟薬科大学非常勤講師(地学担当)

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