地学全般やそれ以外の随想など
新潟の地震を考える  ---番外編---

どんなときに里雪になるか When does it snow heavily in the plains?
  2018年1月25日掲載 2月4日追加 2021年1月11日、12月19日追加、23年1月25日追加、23年12月22日追加
山雪と里雪
 このページでは降水・降雪のしくみを調べて、里雪型と山雪型の違いを理解します。本文は2018年の里雪をベースにしています。

 【追記5】2023年12月22日の「里雪」型天気のデータを掲載しました。→§10
 【追記4】2022年1月25日の「里雪」型天気のデータを掲載しました。→§9
 【追記3】本文の後に、2022年12月20日午前1時の「里雪」型天気のデータ(レーダー画像、ひまわり画像)を掲載しました。この時間、普段は雪の少ない新潟市で激しい降雪となっています。→§8
 【追記2】2021年12月19日。前日の強い寒波(12月中旬にしては強い季節風の吹き出し)が一段落した後の天気について、末尾に追加しました。→§7
 【追記】本文の後に、2021年1月11日の「里雪」型天気のデータ(動画)を掲載しました。→§6


§1 雲の発達と降水
 冬場、上空に見える雲はほとんどが氷晶からなっています(夏場の雲のうち高度が低い雲には水滴も含まれます)。空気中に含まれる水蒸気は目で見えませんが、氷晶や水滴は目で見えます。これらを雲粒、その集合体を雲と呼んでいるわけです。
 雲粒は空気中に含まれる水蒸気が状態変化して生じます。この変化は
 a.上昇することによる冷却
 b. 寒気の流入による冷却
のどちらかのイベントがあると大きくなります。どちらも"冷却"が関係するのは、空気中の水分が気体の状態で存在できる量と、温度の高低との間に相関関係があるからです。教科書にある飽和水蒸気圧曲線がこれです。温度が高いと大きく、低いと小さくなります。このため限界の温度(飽和点、露点)まで冷やされると気体の状態では存在できなくなり、よりエネルギーレベルの低い液体(水滴)や固体(氷晶)に変化します。つまり雲粒が増えて、雲が成長・発達します。
 雲粒はとても小さいので、塵が空中を浮遊するのと同じでそのままでは落下しません。しかし、雲が発達する中で氷晶自身が成長して大きくなったり、衝突合体して大きくなると、揚力と重力のバランスが崩れて降下します。そのまま地上に到達すれば雪で、途中で溶ければ雨になります。

§2 山雪
 山雪は前節で雲の発達の原因を述べたa、bのうち、主にaが関係します。大陸で冷たいシベリア気団から日本海に吹き出された気塊が日本海で一杯水分を供給されて、日本列島の脊梁山脈(ここでは越後山脈)に衝突して強制上昇させられ、雪雲が発達します。学校の教科書では伝統的にこのパターンを降雪のしくみとして説明しています。2000m程度の越後山脈が日本の気候を分断してしまうのは、シベリアから移動してくる空気の流れの背の高さが比較的低いためです。降雪の原因は山に衝突することだけではありません。冬季は海面より陸地の方が温度が低く、日本海から内陸部に入った気塊はそれだけで冷やされます。前述のbの冷却です。ですから山にぶつかる前でももちろん雪雲は発達します。それが越後山脈で二重に冷やされることになるのです(図1,2,3)。
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図1 山雪のしくみ。日本海を渡った気塊は陸地で冷やされ、さらに県境の山岳地帯の前面で滞留し、強制上昇させられて雪雲が発達します。
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図2 山雪時のレーダーアメダス(気象庁による画像をもとに模式化したもの)。雲の列は季節風の吹き出しの方向(北西ー南東)になる。

タイトル 図3 山雪時のひまわり画像(気象庁による)。日本海に北西ー南東方向の筋状の雲の列ができる。中部山岳地帯前面で雪雲が滞留しているのがわかる。

§3 里雪
 山雪のときの雲の配列が北西ー南東であるのに対して、里雪の場合は雲は越後平野の方向つまり海岸線に平行の方向に配列します。大雨のときの「線状降水帯」ならぬ「線状降雪帯」です。これが日本海から平野部に入ると陸地そのものの冷たさに触れ、さらに南西の富山県方向から内陸部を通ってきた冷たい気流に冷やされて雪雲が発達します(図4,5,6)。
 富山方面からの気流のもとをたどると、朝鮮半島の付け根付近の白頭山付近から福井県付近に達した帯が偏西風蛇行の影響で大きく北に向きを変えて越後平野に入ってきているようです。つまり里雪をもたらす雪雲は、日本海から流入する「南西ー北東」配列の変則的な雲の列が、でもとは同じだけれども南方周りで北陸地方の内陸部を北上してきた冷たい気流に冷やされて発達するようです。
 まとめると、単純に北西ー南東方向に筋状の雲が発達したときは山雪で、これが通常の寒波です。山雪のときとは直角の南西ー北東方向に雲が配列して、これと北陸方面からの冷たい気流が衝突したときは里雪になります。さらに簡単に言うと、「北西」が山雪で「南西」が里雪です。
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図4 里雪のしくみ

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図5 里雪時のレーダーアメダス(気象庁による画像をもとに模式化したもの)。日本海からゆっくり移動してくる線状降水帯に富山方面(南西方向)からの冷たい気流がぶつかり、雪雲が発達する様子がわかる。この帯状の雪雲は数時間で消滅することが普通だが、寒気が強くてかつ北西からの吹き出しが比較的弱いと数日続いて里雪型の豪雪となることがある。昭和38年、同59年のものが有名。平成30年1月下旬の寒波もこれに匹敵するか。

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図6 里雪時のひまわり画像(気象庁による)。朝鮮半島の白頭山付近で分かれた二つの流れ、すなわち「南西ー北東」方向に揃った幅100ー200kmの雲の列と、その南側の北陸地方経由で北上してきた雲の列の様子がわかる。

§4 まとめ
 単純に北西ー南東方向に筋状の雲が発達したときは山雪で、これが通常の寒波です。山雪のときとは直角の方向の南西ー北東に雲が配列して、これと北陸方面からの冷たい気流が衝突したときは里雪になります。キーワードは「北西」が山雪で「南西」が里雪です。
 一般的に強烈な寒波の前後(やってくる直前か、一息ついたあと)に里雪になります。そのため、めったに大雪にならない新潟市の場合は別として、長岡市、新発田市あたりが里雪で難渋してもマスコミはあまり取り上げません。反対に、寒波襲来とマスコミが騒いでも長岡市や新発田市は風が強いだけで、積雪量は意外と少ないことがしばしばです。
 また、里雪は集中豪雨のように、比較的狭い領域に限られることがあります。2018年1月中旬の寒波では、新潟市の中心部が大雪なのに山に近い秋葉区がそれほどでもありませんでした。山雪型と里雪型の中間的な降りかたもあります。新潟県の魚沼地方で、北部の平野部に近い堀之内地区や小出地区の方が、南部の県境に近い湯沢町より雪が多い場合がこれにあたります。このように、里雪の場合は地域差が大きいのでマスコミの報道も気象台の警報も住民の感覚とずれる場合が多いのです。

§5 追加: 2018年2月4日の天気
 この冬三度目の本格的な寒波が襲来しました、この日午前9時のレーダーアメダス(図7)、ひまわり画像(図8)、天気図(図9)を掲載します。図7と図8で二つの方向からの気流が新潟県付近で合流(衝突)する様子が分かります。日本海には北西部と南西部に低気圧があります(図9)。この時間帯で越後平野の海岸部で降雪が激しくなっています。山間部では降っていません。典型的な里雪です。本格的な寒気はまだ日本海に入っていないため、黄海には筋状の雲が見えますが日本海ではまだ発達していません。
 図からも分かるように,里雪の場合は平野の広域にわたって大雪となることはまれで,限られた狭い地域に集中して激しく降ることが多くなります。降雪帯の幅が比較的狭いからです。新潟市や新発田市が大雪でも、長岡市や上越市では青空が出ていたりします。しかし,この降雪帯が半日から一日停滞したりすると、山雪時の魚沼地方並の記録的なドカ雪になることがあるので注意が必要です。
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図7 2018年2月4日午前9時のレーダーアメダス

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図8 2018年2月4日午前9時のひまわり画像

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図9 2018年2月4日午前9時の天気図
 



§6 追記: 2021年1月11日の天気

2021年1月10日23時頃から1月11日2時頃までの新潟市と新発田市付近の里雪の状況を動画でまとめました。この時間の気象庁レーダーアメダス、衛星画像、1月10日21時の地上天気図です。
・能登半島・富山方面からの雲の流れ
・朝鮮半島白頭山付近から北陸方面への雲の流れ
・越後平野の海岸部での雪雲の発達
の様子が良くわかります。なお、気象庁の観測によれば、この日の午前2時頃には新潟市で時間降雪量6cmを記録した模様です。

動画を再生するには、videoタグをサポートしたブラウザが必要です。上の画面で再生できない場合は,下のバナーで試してみてください.

里雪2021年1月11日(動画:mp4ファイル)

§7 追記2: 2021年12月19日の天気
 2021年12月19日。前日の強い寒波(12月中旬にしては強い季節風の吹き出し)が一段落しました。すると、当地(新発田市)は例によって里雪型の雪雲に覆われました。図10、11に気象庁の画像を示します。

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図10 2021年12月19日午前7時のひまわり画像

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図11 2021年12月19日午前7時のレーダーアメダスの画像


§8 追記3: 2022年12月20日の天気
 2022年12月20日午前1時。前々日からの里雪型気象が続いています。この時間は新潟市でも激しく降っている模様です。

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図10 2022年12月20日午前1時のひまわり画像

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図11 2022年12月20日午前1時のレーダーアメダスの画像

§9 追記4: 2023年1月25日の天気
 2023年1月25日午前7時40分。前日からの山雪型気象(青で示した北西方向からのスジ状の配列)で暴風雪の状態です。山雪ですから平野部の積雪は数cm 程度です。このあと、西から赤で示した気流が入る地域は「里雪型」に変わる可能性があります。同日午後5時追記: 現時点で依然として「山雪型」の状態が続いています。高田平野、越後平野ともに激しい地吹雪に見舞われていますが積雪は数cmから10cmです。これは昨年12月下旬の里雪型の降雪と対照的です。(この時は長岡市や新発田市で80〜100cmの積雪でしたが、湯沢町では10cm程度でした。)
今後、北西からの吹き出しが弱まると、図の赤で示したルートから雪雲が陸沿いに移動し、地吹雪だけだった平野部でも、ところによっては激しい降雪となる恐れが残っています。寒気の吹き出しが峠を越えても、平野部は油断できません。

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図12 2023年1月25日のひまわり画像


§10 追記5: 2023年12月22日の天気
 2023年12月22日午前2時。典型的な里雪型です。

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図13 2023年12月22日のひまわり画像とレーダーアメダス
 [著者]
 河内一男 
KAWAUCHI Kazuo
新潟薬科大学非常勤講師(地学担当)
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