地殻変動の測量や余震分布から,2007年中越沖地震の断層線を決定する
人工衛星から発信される電波を受信して自分のいる位置を決定するGPS測量システムや,干渉合成開口レーダーSARを利用して地殻変動を調べることができます(中越・中越沖地震の震源断層参照).
「中越・中越沖地震の震源断層」のページで,2004年中越地震,2007年中越沖地震の震源断層がともに西傾斜で南西-北東方向に延びていたことを示しました.このページでは,二つの地震のうち,とくに2007年中越沖地震について再び取り上げます.GPSやSARによる測量によると,柏崎市沖合を海岸線にそって北東方向に延びる断層線(注)は柏崎市北東方20kmの出雲崎付近から内陸部に延びていたことが分かりました.
(注)断層線:地震を引き起こした地下の震源断層面が地表に表れた場合を地震断層という.地震断層面と地表面の交線が断層線である.
断層線は内陸部に達していた
図1〜2に柏崎市、出雲崎周辺の基線変化の一部を示します.
図1 柏崎—小千谷の基線変化グラフ.2007年7月の地震時に約11cm伸長しています.
図2 出雲崎—長岡三島の基線変化グラフ.2007年7月の地震時に約10cm短縮しています.
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地表面に地震断層が現れていなくとも,地表にわずかに表れた地盤変動から震源断層の断層線の位置を間接的に知ることができます.震源断層は逆断層(図3)なので,断層をはさむ二点間は縮み,反対に断層の両外側の土地は伸びます.言い換えると,GPS基線測量の二点間が縮みであれば断層線は二点の間を通り,反対に伸びであれば二点の外側を通ることになります.
図1,2で2007年7月の変動を見ると,柏崎ー小千谷で伸び,出雲崎ー三島で縮んでいます.このことから断層線は柏崎の西方,そして出雲崎と三島の間を通ることが分かります.震源断層が二つ以上あれば,少なくともそのうちの一つの変動を表しているものと考えられます.
余震分布(図4)もこのことと矛盾しません.また図5に示した干渉合成開口レーダーSARの画像は,出雲崎付近が長岡市の方向へ移動したことを示しています.この図の下に示した図のDの線が推定断層線です.
詳細は中越・中越沖地震の震源断層を参照してください.
図3 中越沖地震の発震機構解(気象庁による)
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図4 中越沖地震の本震と余震分布(気象庁による)
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図5 SARから得られた中越沖地震前後の観測による干渉合成開口レーダー(SAR)干渉画像(国土地理院による).左下は筆者による変動の概念図.Dは推定断層線.
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図5の左下の四角枠内は筆者による変動の概念図です.SAR(Synthetic Aperture Radar)とは,人工衛星等に積載した複数のアンテナ(開口面)を合成して解像度を高めた仮想的なレーダーをいいます.人工衛星から同じ地点を2時期に観測し,衛星にその地点が近づいたか遠ざかったかを干渉画像で調べる手法で,地震等による急激な地殻変動の観測に有効です.GPSが,20km程度の間隔の観測点で調べるのに対して,この手法では電波を受信できる地表全体を観測することができます.
凡例の青,赤,黄色の縞1セット分が(このデータを提供した人工衛星ふよう1号の)レーダーの半波長11.8cm分の短縮または伸長に相当します.新潟市付近の青色で示された地域は変動がゼロと考えられるバックグランドで,この色の領域が南西方向(下図Dの線の方向)に伸びています.
観音岬(図5の左下図のA)付近では,平野部の青色のバックグランドと西方の観音崎の間に黄,赤,青の色縞が2セット分,並列しています.これは,単純に計算して11.8×2=23.6cmだけ,色縞2セットが並列している観音崎付近の地盤が衛星の位置(観音崎の南東方向にあり,図の右上から左下へ向かって飛行している)に対して縮んだことを意味します.一方,長岡市〜小千谷市(同B)や柏崎平野(同C)では西方のバックグランドへ向かって赤,黄,青と反対に変化していますから,長岡と柏崎は1セット分・10cmほど遠ざかったことが分かります.
少し難しいかもしれません.それで図5の一部を拡大して上の説明を図中に手描きしてみました.(書込み中)大ざっぱに言うと,観音崎ー長岡は20cm縮み,柏崎ー長岡は10cm伸びたのです.これは,柏崎市街地の西側と色縞2セットの南東側を結ぶ線,すなわち図5のDの線が北西傾斜の逆断層の断層線であることを支持します.
GPSの解析,レーダーの解析ともに断層線は柏崎沖から北東に延びて,出雲崎の東方から内陸部に入り込んでいたことを示しています.海岸道路に敷設されている水準点の地震前後の測量から,海岸付近が隆起し内陸側が沈降していたことが分かりました.地震を起こした断層は発震機構解(図3)から逆断層であることがわかります..また,地殻変動をもたらした断層面は西傾斜の方です(注).これを言いかえると,西側の地塊が東側の地塊へのし上がるような運動をしました.余震分布から推定される断層面の本体は海域ですが,上方の延長が地表面の交差する線が内陸部に入り込んでいたということになります.
図5の概念図中の推定断層線Dは,震源断層の延長面と地表面の交線にあたります.この地震では地震断層が確認されていませんが,出現するとすれば概ねこのD線付近になったでしょう.
図6は震央分布図,震源断層,震源,断層線を立体的に表現したものです.赤色の実線で示した推定断層線が柏崎港沖から市街地の北部で上陸し,椎谷の観音崎の内陸部(東方)に至るようすが分かります.
(注)下半球投影の発震機構解の図3では走向222°傾斜53°すべり角93°の方.野外地質調査では走向がN42E,傾斜53Wと表記する.なお,走向とは傾いた面の水平面との交線の北からの方位角である.53WのWとは,N42Eの方位に向かって左側(西側:W)へ断層面が傾いていることの表記であって,運動の方位ではない..断層は海岸線とほぼ平行する走向(わずか時計回り10°ほどで斜交)で海側の上盤が陸側(東側)にのし上がるような変動をした.すべり角が93°の運動とは,断層面の上の方の岩盤が下の岩盤に対してN135E(S55E)の方位へのし上がったことを意味している.42=222-180, 135=42+93 である.
図6 中越沖地震の本震と余震分布(気象庁による)と地殻変動から推定した震源断層の3D図(立体図).
少し,細部が見えにくいので震央付近を拡大します.
図6-2 柏崎市付近の部分拡大図.
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