沼沢火山の火砕流は新潟県北部まで達していた 2
日本海東縁プレート境界の地震地学
Seismo-Tectonics on the Eastern Japan Sea Plate Boundary
新潟の地震を考える
My View about Seismicity around Niigata Region
沼沢火山の火砕流は新潟県北部まで達していた 2
2025年9月16日掲載
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新潟県下越地方を襲った火砕流 2
5400年前の沼沢火山のプリニー式噴火
?BC3400年の沼沢火山の火砕流(プリニー<式のカルデラ噴火)は新潟県北部一帯を襲っていた?
【概要】
その1の概要 これまで火山東方の会津地方のみと考えられていたBC3400年の沼沢カルデラの火砕流は、偏西風に乗って運ばれた広域テフラとはメカニズムが異なっていた。それは、8万年前の阿蘇カルデラ、3万年前の姶良カルデラと同じく、上空数十kmまで上昇した火山礫を含んだ噴煙柱の流下による火砕流は四方八方へ高速で流走した。今回の調査により確認できた火口から北方への流走は、新潟市秋葉区から阿賀野市、新発田市、胎内市、村上市(火口から直線距離90km)まで達していた。
その2では、一部採取地(採取地1 〜4)の詳細な地図と特徴、阿賀野市六野瀬の阿賀野川の運搬による軽石層について述べる。
1. 採取地の詳細と特徴
採取地1 新潟市秋葉区新潟薬科大学近く
新潟薬科大学の正門を右に出て、道なりに登り切り、平坦な道を500mほど進んだ右側の1.5mほどの崖と、さらに50m進んだ杉林地点(図1)。A点は比較的露出状態の良いロームが観察できます。柿畑の一部であるため、成層(地層の積み重なりの状態)は確認できません。B点は杉林の表土10〜20cmのクロボクを採取しました。
図1 新潟薬科大学付近の露頭
採取地2. 五泉市村松公園前の愛宕原(図2)
村松公園前の新潟大学農学部愛宕原実験農場の周辺は、一帯がクロボク土壌です。表土10〜20cmのクロボクを採取しました。クロボクの深さはまだ確認できていません。これは他の採取地でも同様ですが、スコップで穴を掘ればクロボクの深さ程度なら可能かとおもいます。しかし、今のところ、深さ(厚さ)は測定できていません。8
図2 村松公園愛宕原
採取地3. 阿賀野市赤坂(図3-1)
赤坂地内の宅地内(図3-2)にわずかに小さな露頭が確認できます。所有者の許可をいただいて試料を採取しました。はっきりしたクロボクはありません。クロボクより下位の粘土質の赤土(ローム)です。所有者の方にお聞きすると、クロボクと違って粘土質で水はけが悪く、畑作には向かないということでした。このお宅はかつて、この粘土を使って瓦製造をしていたそうです。図3-2は赤坂の集落内の露頭、図3-3は一部の層準(地層の位置)の土を水洗いして重鉱物(粒径が0.5-0.25mm)を双眼実体顕微鏡で観察したものです。気象庁HPによれば、約11万年前から数万年の間隔でプリニー式噴火を繰り返してきているので、そのうちのいくつかの噴火の降灰や火砕物です。というのは、数mm径の軽石と火山礫をあ含みますから、一部に阿蘇山や姶良火山などの広域テフラ(火山灰)を挟んでいる可能性はありますが、多くは沼沢起源でしょう。
図3-1 阿賀野市赤坂と六野瀬
図3-2 赤坂の露頭
図3-3 ローム中の重鉱物。黒緑色長柱状は角閃石、薄茶色長柱状は斜方輝石です。対物台が白色なのでみづらいですが、石英も多く含みます。
採取地4. 阿賀野市六野瀬農業用水路脇(図3-1)
台地と休耕田の間の高さ約2mの崖です。表土にクロボクはありません。全体がマイクロパミスと高温石英を大量にふくんでいます。露頭の下に5〜10cm径の軽石が散乱しています。これはロームではなく、つまり降下火砕物ではなく、阿賀野川が上流の只見川から運搬してきた二次堆積物でしょう。この地点が標高約20mで、採取地3の赤坂が標高約35mです。この近くの阿賀野川の平常時の水面は約15mです。図4-1に両地点付近の河岸段丘の概念図を示します。段丘の成立順序は理科や地理の教科書通りです。赤坂の土台が古く、六野瀬の土台は新しい。ですから、先に数万年前のプリニー噴火による古い火砕物からなる赤坂のローム層が形成され、後にBC5400のカルデラ噴火の最後で最大のプリニー式噴火がもたらした軽石が、川の堰き止め・決壊・流下・氾濫による二次堆積物として六野瀬用水路付近の、赤坂の面より低い(新しい)段丘面を被覆しました。なお、両地点とも火山灰は残っておらず、したがってクロボクは形成されませんでした。地層から脱落した軽石の産状を図4-2に示します。
図4-1 段丘の概念図
図4−2 軽石の産状
以下に採取地5から14までを列挙します。また、まとめて地図等の図版を示します。
採取地5. 新発田市月岡温泉南(図5)
月岡駅側(西側)温泉入口付近のバイパス分岐から100mほど、南側斜面。表土下20cmのクロボク土壌。
採取地6. 新発田市五十公野公園テニス場西側斜面(図6) 杉林の表土下20cmのクロボク土壌を採取。
採取地7. 新発田市五十公野公園升潟(図7)
尾根に上がる遊歩道脇の表土下20cmの赤色土を採取。
採取地8.新発田市本間新田図8)
長峰原の西方の丘陵。杉林の表土下20cmのクロボク土壌を採取。
採取地9. 新発田市長峰原(図9)
表土下20cmのクロボク土壌を採取。
採取地10 新発田市金塚(図8)
下小中山団地の斜面を登り切った東側のへり。表土下20cmのクロボク土壌とその下20cmの褐色土(ローム)を採取。
採取地11. 胎内市胎内平(図11)
表土下20cmのクロボク土壌を採取。
採取地12. 胎内市平木田(図12)
韋駄天山麓の表土下20cmのクロボク土壌を採取。
採取地13. 村上市山辺里鋳物師(図13)
旧門前谷小学校グランド奥。杉林の表土下20cmのクロボク土壌を採取。
採取地14. 村上市黒田(図14)
黒田集落の東方の台地。杉林の表土下20cmのクロボク土壌を採取。
[著者]
河内一男
研究センター:日本海東縁の地震地学
KAWAUCHI Kazuo
Research Center: Seismotectonics of the Eastern Margin of the Japan Sea
記事一覧
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